2024年8月12日月曜日

セッターって難しい。

 補足しますとこれはクライミングのルートを設定する人。
大会において不可欠なルートセッター(通称セッター)って役割についてのお話です。


いやほんとタイトルの通りですね。
ほんの数センチずらしただけで結果がガラッと変わってしまうくせに、それがわかるのはぶっつけ本番ってめちゃくちゃ難しい仕事だと思います。
僕自身、携わった事もあるので真剣に向き合って最後まで調整して祈るような気持ちでその瞬間を迎える姿を知ってるし、人として頭が下がります。

立場上なにか問題が起きたときに選手とセッターは反目する事の方が多いと思います。
そして、僕は割と意見を口に出すタイプなのでセッターに対する選手としてのあーだこうだというのももちろん言ったことはありますが、出会えば一般的な敬意を込めて頭を下げて挨拶をしますし、好き嫌いとかそういう話ではないです。
これから書いていくことも、個人として対個人にどうこうって話ではなく、これはシステムの話なのであしからず。



さて、前置きがなごーなりましたが本題です。
物議を醸してますね、オリンピックのセット。
特に女子決勝のボルダーについてはプロから、やったことある人、素人からニワカまで好き放題あーだこーだ言ってるので僕ももう少し深くあーだこーだ言ってみようかと。

ではそもそもコンペってなんなのってとこから。
これは、どの立場においても目的は同じでその大会においての順位をつけて楽しんでるわけですね。
少し脱線しますがあくまでその大会においてであって、観客目線で楽しむなら結果だけ見て勝ったから強い負けたから弱いみたいなそんな底の浅い競技ではないので、見るならそれぞれの輝きを見てみてください。きっともっと楽しめます。
ちなみに選手として当事者目線だとそれも含めて勝ったから強い負けたから弱いでやってました。
その奥深さに付いてこられない、単純な競技が見たい方にはクライミングならスピードおすすめしときます。
多分この文章も読むだけ無駄なのでここで戻るボタンをどうぞ。

まぁ話を戻しますと、コンペってのは優劣をつけるためにやってるわけです。
そういう意味で差別化したくないならコンペなんかやっちゃだめです。どのスポーツでもそうですがね。
差をつけたいのに公平な訳が無いんですよねそもそも。
ここまでが前提です。
ここまでの文章にも視点や立場というワードが散見されますが、今回は観客、運営、選手と大きく3つの視点がそれぞれの立場から事象を観測していきます。
構成が複雑な文章になりそうな予感なので先に謝っておきたいと思います。




ではそれぞれの視点からコンペを見てみましょう。

選手として見ると上にも書いた通り理不尽は当たり前で、個々でそれぞれ違う理不尽に対するボーダーが、統一できるものではない以上、何が出てきても全てを受け入れて上を目指すしかないんです。
これは、ルーツとしてセッターの存在しない(もしくは神がセッターを務める)アウトドアでのクライミングがあり、その中では文句を言う先がそもそも存在しなかったという源流も併記しておくべきでしょうかね。

背が低いってのは見た目にすごくわかりやすい特徴ですが、他にも弱点になりやすいものといえば、手が小さい、指が太い、手足が短いとかでしょうか?
どれも努力でなんとかなるものではないですね。
まだまだあると思いますが、これら全てに配慮してどうこうってのは不可能ですよね。理不尽と感じるボーダーも人それぞれです。
基準が設けられない以上、何が出てきても選手としては全力を尽くして頑張るしかない。
そういう理屈ですね。


観客目線で大会を見ると
チケットを買って見に行くようなクライミング好きが大会で楽しみにしているのはきっと、アツい展開で盛り上がれる瞬間の興奮だと思うんです。
順位どうこうではなく、あのトライはアツかった、あの一手ヤバかったとか、語彙力無くなるあの瞬間ですよね。
優勝はもちろんすごいですがそれ以外にもすごいやつがいっぱいいるのがクライミングの良さです。
例えば
え、あれ一撃してんの?
え、全課題ゴールタッチしてんの?
え、みんなできたアレ出来なくて、一人だけアレ登って3完なの?
え、3完45撃?
え、そこでクリップしたの?
え、何そのレスト?
とかとか、誇張はあれどある程度見たことある人はどれも思い当たるシーンあるんじゃないんでしょうか?
あんまり見たことない人はこういう、たくさんの結果に出ないすげーを楽しんでくれると嬉しいです!!
まぁそんなこんなですげーがいっぱいあるので選手たちはリスペクトしあってるんです。
敵味方とかではなく、共通の敵(課題たち)に対してベストを尽くそうぜ!結果は神のみぞ知る!!!みたいな心持ちなんです。
少なくとも僕はそうだったので観客のみなさんもそれを念頭においてほしい。
誰かの評価の為に誰かをさげたりしないように!
せっかくクライミングを見てるのに勝った負けただけでしか物事を見れない質の悪いカスが来ると雰囲気悪いから一生来んなのは少し悲しいから。
なんか選手目線混ざっちゃいました。



では、運営として見るとどうでしょうか?
そもそも現代の(特に規模の大きい)コンペは、ただ身内で強いやつを決めようぜって競技の側面だけの話ではなくなってます。
チケットを売り、お客さんに来てもらうのであれば、ショーとしての要素もあります。
継続性を考えれば楽しんで満足してもらうところまで目標になろうかと思います。

草コンペで関係者(観客、選手、運営含め)全員が身内ならば競技性として許される範囲であれば何してもいいという論も通るでしょう。身内なら楽しめますからね。
しかしチケットを買って観に来てくれた不特定の方を前にそれは暴論となるのも自明でしょう。
誰一人ゴールができない課題を見ていて観客は面白いでしょうか?
スタートできないまま帰っていく選手をどんな気持ちで見ればいいんでしょうか?
足のスリップだけで勝負が決まるの、観客の求めてる興奮を提供できますか?
競技性も担保しつつ、ショー要素とのバランスをとって選手、観客ともに不満が少ない運営をきっと目指してると思うんです。

そのためにはある程度、理不尽に対するボーダーを運営(この場合セッター)がコントロールし、見てて理不尽さばかりが印象に残ることの無いような課題設定を目指すべきですね。
そしてそこを見誤ってしまったらそれは失敗なんだろうと思います。
めちゃくちゃ団子になったとか、決勝まで来てる選手がスタートすらできない課題があるとか、誰一人ゾーンすらつかなかったとか。
これは何を言っても事実として選手の頑張ってる姿を観客の前で引き出せなかったセッターの責任です。
あまつさえ選手に対して何が出てきても出来んやつが悪い文句言うなと運営が言い出すのは能力の低さを責任転嫁してるだけですから目も当てられませんよね。
セッターの作品発表会じゃなくてあくまで選手の頑張りを観客の前で引き出すのが目的だってもうちょっと考えてくんね?みたいな時はありますが
ただ、まじでめちゃくちゃ難しい仕事なんですよ。
蓋開くまで結果は見えないんですから。
そもそも誰も団子作ろうとか、あいつスタートできない課題にしてやろうとか思って作ってないんです。
故意を疑う論調もありましたが、どこにも誰にも肩入れしないという美学が彼らにはあるんです。その担保として、そもそも選出する時にセッターチームの中で出身や登りのタイプといった属性が偏らないようになってるんですね。
つまり、あの1課題目はたまたまそういう事故が起きただけなんです。
実際僕の尊敬するほとんどセッターさんたちはこういう事故が起きたときはめっちゃ神妙な面持ちでいらっしゃいますしね。

それぞれの視点からオリンピック女子決勝1課題を見るなら

選手 うむそういう系ね
観客 スタートできない4分はちゃうやろ
運営 ああ、、、あああ、、、
野次 推しが頑張ってる姿をもっと見せろや!
無知 差別が!公平性が!多様性が!

てなところではないでしょうか?

ちなみにそればかり言われてますが3課題目は背の低い方から2人とヤンヤだったように記憶してますが違ったかな?
あれはヤンヤがヤンヤだっただけで神展開だったのでは?



じゃあそもそもなんでそうなったかってところも紐解いてみましょう。

そもそも課題の短いボルダーのほうが一つの要素がより際立ちます。
それぞれ利点としても弱点としても際立ってしまうんです。
距離保持パワーバランス精神力といろんなステータスの中でどれを試されてもおかしくないんですが、あいちゃんにとっては距離は大きな弱点ですね。
たまたまそれがフォーカスされた課題だったんです。それはそういうもんなので、彼女も文句言わずその理不尽をリードで補ったんです。
いや神でしょあれ、かっこよすぎ讃えろもっと。



まあ何かって言うと、あれを見て歪んだ印象が広がってるような雰囲気を感じましたが、僕達当事者からするとその理不尽も含めて、立ち向かう姿がお互いに対するリスペクトに繋がり、そのリスペクトが国境を越えた声援に繋がるのがクライミングの良いところだと思って、この競技をしてます。

無知が故の批判をするくらいなら、まずは競技を知り、彼らを讃えてください。
みんなかっこよかった!!!!!!!


そしてセッターさんたち。
批判はすぐ飛んでくるけど称賛はそんなに聞こえないし基本的に反省点0で終わる事なんか無いだろうし大変な仕事です。
理想が食い違う事はありますが、それはさておきいつも、大変な役目をありがとうございます。
神セットだったと思ったら縁の下の力持ちな彼らにも惜しみない賞賛を。

いつにもましてまとまらねー文章になりましたが伝わると嬉しい